野菜のタネの中はどうなっているの?
 結球ハクサイのタネ一粒の重さは3mg。これが収穫時には結球部分だけでも4kg以上になります。わずか3ヶ月ほどで百数十万倍に成長するのです。野菜のタネには驚異的な生命力がこめられているのですね。
 野菜のなかには、いも類やゆり根・ワケギなどのようにタネ芋や球根を植え付ける種類もありますが、それらは少数派で、大部分の野菜はタネをまくことから栽培が始まります。それだけに、野菜栽培では良いタネを上手にまくことが大切です。では、良いタネとはどんなタネでしょうか? 良いタネの条件を挙げてみましょう。
野菜のタネの絵袋

 <1> 形が良く、大きさも適正で、傷のないもの
 <2> 発芽に必要な養分を持ち、そろって元気よく発芽するもの
 <3> 病気や害虫に冒されていないもの
 <4> 品種固有のすぐれた遺伝的性質を持っているもの

<1>は外観ですぐわかりますが、野菜のタネは袋入りで売っているので、買ってから開けて見るまでわかりません。<2>は生理的なことですから、見ただけではわかりません。<3>は見てわかるものもありますが、やはりタネまきしてみないとわからないものです。<4>は遺伝的なものですから、見ただけでは全くわかりません。しかもこれがタネとして最も重要なことです。
 

 
つまり、野菜のタネの良し悪しについて、見るだけでわかることはほんの一部分です。栽培管理を充分にしても、タネが悪いと発芽しなかったり、性質が悪かったりしては努力の甲斐がありません。ですから、タネは信用の置ける店や会社から買うことが大切です。

 まず、タネを外から見ましょう

日本ホウレンソウ 洋種ホウレンソウ
日本ホウレンソウのタネ
洋種ホウレンソウのタネ
ホウレンソウのネーキッド種子
 野菜のタネは、種類によって大きさや形や色がさまざまに違っています。タネを植物学のことばでは種子(しゅし)といっていますが、野菜のタネのなかには種子でなく、種子を内蔵した果実(かじつ)もあるのです。ホウレンソウやニンジンやレタスのタネは種子ではなく果実です。果実をタネとしてまくものは、発芽するのにトラブルが多いのです。

 
ホウレンソウは一つの果実の中には種子が1〜数個入っていますが、果実が水を吸いすぎて種子が発芽しにくい状態になることがよくあります。その上、日本ホウレンソウの果実には鋭いとげがあって、指に突き刺さるなどしてタネまきしにくいものです。

 これを解消する手立てとして
ホウレンソウネーキッドシードが開発されました。ネーキッド(naked) とは「裸にした」という意味です。ホウレンソウの果実の中から種子を採り出してタネとしてまく方法です。この技術開発のおかげで、ホウレンソウのタネがずっとまきやすくなり、早く良く発芽するようになりました。裸の種子なので表面を消毒しますが、消毒剤に赤い色を加えて、まいたタネを見やすくしています。

 ニンジンのタネには外に向かってやや荒い毛が生えていて、タネ同士が絡み合い、タネまきがしにくいものでした。その後この毛を取り除く処理がされるようになって、今では毛の付いたままのタネはほとんど売られていません。
 
オクラのタネ
聖護院ダイコンのタネ
 タネの粒の大きさや形は、タネまきの作業のしやすさに大きく関係します。マメ科の野菜のタネはどれも大粒です。ソラマメの大粒品種では長さ3cm 幅2cm もあります。クリカボチャのタネも大きく、長さ1.6cm くらい、幅1cm ほど、厚さ3〜4mm の扁平な形をしています。外側はつるつるして光沢があり、オブラートのような透明な膜をかぶっています。

 小さい方では、アブラナ科の
ハクサイ・カブ・コマツナなどのタネは直径1.5mm以下、キャベツのタネは直径2mm 以下の球形です。レタスのタネは長さ3mm 幅1mm ほどの小さく細長いタネです。普通は5mm くらいの球形のタネがまきやすいのです。

大きいタネ  左 ソラマメ ・右 ナタマメ
     
 タネの色は種類によってさまざまで、インゲンマメは品種によって、各色のほか、斑点、二色など多くの複雑な色をもっています(野菜こぼれ話第八話・花豆入り羊羹参照)

 レタスにはタネが白色の品種と濃い茶色の品種とがあり、クリカボチャのタネも品種によって白と黄色とがあります。白色のタネは土面でよく目立つので、まいた状態がわかりやすいものです。

 結局、野菜のタネは、直径4〜5mmくらいで球形・白色がもっともまきやすいということになりますが、そんな条件にぴったりのタネはありません。近いのは
オクラのタネでしょう。オクラのタネは直径4〜5mmほどで球形ですが、色は白ではなくうす緑色です。次いでダイコンのタネは直径3mmくらいでほぼ球形、色は赤茶色で目立ちやすい色です。
 

 つぎに、タネの中の構造をのぞいて見ましょう

ナスの花
 植物のタネは受精(じゅせい)した胚珠(はいしゅ)が発育してできます。めしべの柱頭(ちゅうとう)に着いた花粉(かふん)は、花粉管(かふんかん)を伸ばしてめしべの花柱(かちゅう)を通り、子房(しぼう)の中にある胚珠と受精(じゅせい)します。

 受精した胚珠はすぐに細胞分裂を始め、
(はい)胚乳(はいにゅう)へと発育して行きます。胚珠の外側は種皮(しゅひ)に、子房の壁は果皮(かひ)になります

 野菜のうち、カボチャやトマトのように子房の中に多くの胚珠が着いている種類では、果実が熟してから採り出した
種子(しゅし)がタネになります。ホウレンソウやレタスのように、子房の中の胚珠数がごく少なく熟してからも果皮が開かない種類では、果実(かじつ)がそのままタネになります。

 種子の中には胚の発芽に必要な栄養分が蓄えられています。栄養分を蓄える場所は胚乳か子葉(しよう)のどちらかで、種類によって決まっています。子葉は胚の一部分ですが、種子の発育中に大きくなって栄養分を蓄えるようになります。イネ科の植物では胚乳に栄養分を蓄えています。私たちが毎日食べている白米はイネの胚乳です。一方、マメ類は子葉が大きくなって、ここに栄養分を蓄えています

ササゲのタネとその断面 トマトのタネの断面 レタスのタネの断面

 図を見てください。ササゲはタネの中の大部分が子葉で、胚乳はほとんど見られず、胚軸の先には小さいながら第一本葉がすでにできています。(へそ)は、種子が果実の胎座(たいざ)に着いて栄養分をもらっていた跡です。豆も人間と同じですね。トマトのタネは種皮に毛が生えていて、その内部にはかなり大きい胚軸(はいじく)と小さく幼い子葉を持つ胚があり、胚乳の組織に包まれています。レタスのタネは中身のほとんどが胚で、子葉部分がかなり大きく、胚乳はわずかに残っているだけです。その外側は種皮と果皮に二重に包まれています。このように、野菜のタネは外観も内部構造もさまざまです。

 タネまき革命へ・・・タネの加工
クリカボチャのタネ
  表面未処理のタネ 粗面処理したタネ

 
野菜の品種改良の進歩とともに、タネを扱いやすくまきやすくしようとする技術開発が進んでいます。ホウレンソウネーキッドシードは大きな技術開発でした。これに加えて、タネの表面加工ペレットシード作りがいくつもの野菜のタネで広く行われています。

 
タネの表面加工の簡単なものは、タネの表面を粗面にして発芽を抑える物質を取り除き、水の吸収を良くして発芽を促進する方法です。クリカボチャのタネは外側がつるつるして光沢があり、オブラートのような透明な膜をかぶっています。この透明な膜には発芽を抑える成分が含まれているので、これを取り除き、つるつるした表面をこすって粗面にしたタネが販売されるようになりました。

レタスのタネ
普通のタネ ペレットシード
最近、ペレットシードがいくつもの野菜で販売されています。ペレット(pellet) とは「丸めた球」という意味です。レタスやニンジンのタネなど、小さくて細長くまきにくいタネの一粒づつを、珪藻土(けいそうど)などの材料で包んで固めたものです。

 サイズや形はいろいろに変えられるようですが、直径4〜5mm の球形で白色に加工したものがほとんどです。大きさ・形・色がもっともまきやすい状態ですね。土にまくと、外側のペレット材料が適度に水分を含んでから壊れて発芽を助けます。

 ペレット加工には費用がかかりますが、まくタネの数が少なくて済み、まきやすく、間引きの手間も少なくて済む利点があり、これからさらに普及すると思います。
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 野菜のタネは、良質のものを選んで少なめにまき、確実に発芽させる、これが鉄則です。ネーキッドシードやペレットシードも大いに利用しましょう。


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