交配種とそうでない品種とはどう違うの?
  野菜のタネの袋や種苗会社のカタログを見ると、品種名(ひんしゅめい)の上に会社の名を入れて「OOO交配」と書いてあるのと書いてないのとがあります。カタログの説明には、OOO交配とは「当社で育成した交配種(一代雑種)です」と書いてあります。さて、交配種(こうはいしゅ)とはなんでしょうか? 一代雑種(いちだいざっしゅ)とはなんでしょうか? 普通の品種(ひんしゅ)より交配種のほうが高級のように思えるのですが、交配種とそうでない品種とはどう違うのでしょうか? そして、交配種はどうして作るのでしょうか?

交配種のタネ袋 キュウリとニンジン
普通の品種のタネ袋 ネギとレタス

 左のタネ袋も右のタネ袋も同じ種苗会社のもので、上半分を写したものです。左の袋には
交配種(こうはいしゅ)のマークがあるのに、右の袋にはそのマークがありません。このように信用度と技術力の高い種苗会社では、交配種とそうでない品種とを区別し、明示してタネを売っています。

交配種ということば

 
交配(こうはい)とは、もともと家畜などの動物で、子を作るためにメスにオスを掛け合わせることをいう言葉です。植物については、交雑(こうざつ)というのが学問的には正しいのです。しかし「雑」という字には、粗雑とか雑音というような言葉のように良くないイメージがあります。それで種苗会社では交雑といわずに交配といっているようです。植物で交雑とか交配というと、ある品種(ひんしゅ)のおしべの花粉を別の品種のめしべの柱頭に着けることをいいます。

 また、
(しゅ)とは、植物分類学では交雑して正常に子孫ができる範囲のグループをいい、その範囲の中で異なるタイプのものを品種(ひんしゅ)といいます。野菜でいえば、ネギとかレタスというのが植物学上のの名で、九条太とか極早生シスコというのが品種名です(野菜の種類はいくつ?のページ参照)。ですから交配種というのは正しくは品種のことで、交配種もひとつの品種です。でも種苗業界では交配品種といわずに交配種といっています。それでこのページでも業界用語の交配種という呼び名を使うことにします。

交配種はなぜ増える?


 昔は普通の品種ばかりで、交配種はありませんでした。普通の品種は、その株からタネを採ってまくと、生えてくる子は親と同じ性質のものになります。代々の性質が変わらないので、普通の品種を固定品種(こていひんしゅ)といいます。種苗業界では固定種(こていしゅ)とか単種(たんしゅ)とも呼んでいます。

 この
固定品種の二つを掛け合わせると、次の代は雑種第1代になります。雑種といっても第1代は両親の性質のうち優性のほうが現われ、劣性の性質は現われません。そしてほとんどの場合、両親のどちらよりも丈夫でよく生長し、性質も品質もよくそろい、収穫も多くなるものです。

 この現象を
雑種強勢(ざっしゅきょうせい)といいます。この雑種第1代は一代雑種ともハイブリッドともいいます。種苗会社では、一代雑種のうちとくに性質のすぐれたものを選んで交配種として販売します。


 
では雑種第2代はどうなるでしょうか? 交配種つまり雑種第1代の株からタネを採ってまいて育てた雑種第2代は、遺伝の法則により分離して、形や性質がさまざまに異なった不ぞろいのものになってしまいます。このように雑種強勢を利用できるのは雑種第1代だけに限られるので、交配種のタネは毎年同じ組み合わせの交配をして作らねばなりません。

 固定品なら、一度タネを買えば、その後は栽培者でもタネ
採りをして栽培を続けてゆけますが、
交配種栽培者がタネ採りをしても次の代は変わってしまうので、毎回種苗会社からタネを買うことになります。一方、種苗会社は毎年交配種のタネをを作り出して販売できます。


 野菜の主な種類で
交配種が主流を占めるようになったのは、雑種第1代がすぐれた性質を持っていることが第一。このほかに、種苗会社としても有利な営業につながることもあります。

交配種はどうして作る?

 交配種を作るには、選んだ両親の品種を掛け合わせねばなりません。植物の場合は、一方の品種の花粉を別の品種のめしべに受粉させることを指します。交配種のタネをたくさん採るためには、ほかの畑から隔離されたタネ採りのための広い畑・採種圃(さいしゅほ)が必要です。種苗会社では、どんな方法で受粉させて大量の交配種のタネを採っているのでしょう?

 
<1> 人工受粉(じんこうじゅふん)する

人工受粉の作業順
ピンセットでつぼみを
除雄して袋掛け
開花日に袋をはずす 別の品種の花粉を受粉 受粉後に再び袋掛け

クリカボチャの花
雄花
雌花
 人工受粉は果菜類で行われている方法です。上の図はナスの人工受粉の手順です。交配種を作る試みは1927年(昭和2年)にナスで始められました。ナスは一つの果実の中に1000個以上のタネができるので、交配種のタネ採りの能率がとくに高いのです。ついで昭和10年代に入って、トマト交配種ができました。福寿1号という交配種です。その後キュウリカボチャメロンなどのウリ類に広がり、ピーマンオクラでも交配種のタネが販売されるようになりました。
トマトの花
ピーマンのつぼみ

 ナスやトマトでは、交配でタネのできる能率は高いのですが、ひとつの花の中におしべとめしべの両方ともあるので、交配するには開花前におしべを取り除かねばなりません。この作業を
除雄(じょゆう)といいます。

 除雄作業は、開花前日につぼみの先を開き、ピンセットで5〜7個あるおしべをすべて取り除いて袋をかぶせる作業です。トマトのおしべは互いにくっついて筒のようになっているので、ワンタッチで除雄できます。

 翌日、花が開いているのを確かめて、袋をいったんはずし、交配相手の品種の花から採った花粉をめしべの
柱頭(ちゅうとう)につけます。これが受粉作業です。このように、ナス科の果菜類では、除雄・袋掛け・花粉集め・受粉などの作業が必要です。

 ウリ科は
雄花(おばな)雌花(めばな)の別があるので、除雄作業はいりません。一方の品種の雌花の開花前に袋掛けをして、開花日にもうひとつの品種の雄花の花粉を受粉すればよいのです。

 
<2> 自家不和合性(じかふわごうせい)を利用する

アブラナ科の花
 キャベツ結球ハクサイ・ダイコンなどのアブラナ科の野菜では、ひとつの果実に数個のタネしか入っていません。こんなに少なくては、人工受粉での交配種のタネ作りはとてもできません。ところが、アブラナ科の野菜には自家不和合性という性質があります。自家不和合性とは、自分の花粉は自分の花のめしべに着いても受精しない、自分の株だけでなく同じ品種のほかの株の花のめしべに着いても受精しない、という性質です。この性質を持つ品種二つを並べて植えておけば、花が咲いたときに昆虫が花粉を運んでくれるので受粉に人手が要らず、両方の品種の株から交配種のタネが採れます。

 でも、ここで起こるあなたの疑問? 両親の品種はどちらも
自家不和合性なら親品種のタネはどうして採るのか? とお思いでしょう。これには奥の手があるのです。自家不和合性という性質は花が開いたときから現われます。つぼみのときはまだ自家不和合性はありません。でもめしべの受精力はつぼみのときからあるので、咲いた花の花粉をつぼみの中のめしべに受粉すれば、親品種のタネ採りができるのです。ただ、この親品種のつぼみ受粉は人工受粉になるので、種苗会社は春の開花シーズンに多人数のアルバイターを雇ってこの作業をしています。

 <3> 雄性不稔性(ゆうせいふねんせい)を利用する

ピーマンのおしべの断面
 正常な花のおしべ
   雄性不稔花のおしべ・・
タマネギの花 右・正常 左・雄性不稔
タマネギ交配種の採種圃
画像をクリックすると
別の大きい採種圃がみられます
 雄性不稔性とは、本来ひとつの花の中におしべもめしべもある種類の野菜なのに、おしべがなかったり、おしべがあっても花粉がなかったりするものです。この性質は突然変異(とつぜんへんい)で現われ、その性質は遺伝(いでん)します。一度この突然変異株を見つけると、これに正常な株の花粉を受粉して、いくつもの品種の雄性不稔系統が育成できます。

 ある品種の
雄性不稔系統の株と別の品種の正常な株とを並べて植えると、花が咲いたときに昆虫が花粉を運んでくれるので受粉に人手が要らず、雄性不稔系統の株から交配種のタネが採れます。この場合、花粉が一方通行になるので、タネ採りの能率を上げるために、花粉親の品種よりも雄性不稔系統の品種の株を多く植えます。雄性不稔系統の次の代を作るには、同じ品種の正常な系統の遺伝性を調べ、次世代の全部の株が雄性不稔となる花粉親を選んで受粉します。

 
雄性不稔性利用による交配種のタネ作りは、タマネギから始まり、ニンジンスィートコーンでも実用化されています。

 <4> 雌雄異株(しゆういしゅ)を利用する

ホウレンソウ交配種の採種圃
 ホウレンソウにはメス株オス株の別があります。葉を見てもわかりませんが、春先になってとうが立ってくると区別がつきます。オス株のほうが早くとう立ちします。そこで掛け合わせたい二つの品種を並べて栽培して、一方の品種のオス株を花の咲く前に全部抜き取ってしまえば、この品種のメス株は隣のもうひとつの品種のオス株からの花粉を受粉して、交配種のタネができます。

 この方法はもっぱらホウレンソウで実用化しています。また、ホウレンソウの
交配種のタネの多くはネーキッドシードに加工され(野菜のタネの中はどうなっているの?のページ参照)販売されています。
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本紅金時ニンジン
(固定品種)
 野菜の品種で交配種の占める割合は非常に大きくなっています。その陰で今までの固定品種が廃れるのを嘆く声が聞こえます。しかし昔の都市近郊の野菜生産から遠距離大量輸送園芸の時代となった現代では、技術革新に基づく交配種がなければ、国民全体とくに都市に住む人々への野菜の充分な供給は不可能でしょう。

レタス 極早生シスコ
(固定品種)
 それに、なにも交配種は固定品種を追い払うものではありません。全国各地で栽培されている在来品種地方品種のほとんどは固定品種ですが、良いものはしっかりと生き残っています。京都の京野菜、大坂のなにわ野菜はその代表でしょう。生産性は低くても、独特の品質を持つ固定品種は栽培を増やしています。値段が高くても根強い人気があるからです。

 また、
交配種の作れない野菜もあります。その代表はレタスマメ類

 レタス
には自家不和合性がなく、雄性不稔系統は見つかっていますが利用の仕組みが作れません。しかし、アメリカでの永年にわたる品種改良に続いて、さらに日本に適した品種選抜の結果、固定品種でも全国的に流通する良品ができています。

 マメ類の
エンドウインゲンマメソラマメエダマメなども重要野菜ですが、固定品種での生産が続いています。ニンジンでも雄性不稔性利用による交配種ができていますが、まだまだ固定品種も広く栽培されています。
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 交配種作りは、他の生物の遺伝子を入れる遺伝子組み換えではありません。複数の品種間の交配による一代雑種の雑種強勢を利用する品種改良です。現代は交配種も固定品種も自由に手に入る時代です。日ごろは流通の多い品種を、時には地方の良質固定品種を取寄せて、いろいろな野菜を味わいましょう。


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