野菜にもホルモンがあるの?
トマトの花
 ホルモンとは、体の中で作られ、ごく微量で生物の体の調子を整えて良くしている物質です。私たちの体の中でも体のあちこちに副腎(ふくじん)とか生殖腺などのホルモンを出す腺(せん)があって、そこから出た各種のホルモンが全身に配られ、体調を良い状態に保っています。人体でもっともよく知られているホルモンはインスリンでしょう。インスリンはすい臓で作られ、全身に配られて血液中の糖分の濃度を一定に保つ働きをしています。インスリンの出方が悪くなると糖尿病を発症します。
 ホルモンは動物で発見されましたが、植物にもあるのです。それがどんなものか、どのような役目をしているか、野菜の栽培にも関係があるのか、そんなことを調べてみました。
 現在見つかっている植物ホルモンは次の7種類です。発見されたのは表に示した特定の植物からですが、どの種類のホルモンも植物全体に広く存在するものです。もちろんどの野菜の体内にもあって、成長や生殖が順調に進行するように調節の役目を果たしています。

植物ホルモンの種類と作用

名 前 発 見 作 用
オーキシン  1920年代にカラスムギの子葉から  成長促進・細胞肥大促進
ジベレリン  1938年日本でイネの馬鹿苗病菌から  細胞の伸長と分裂の促進
サイトカイニン  1963年トウモロコシの種子から   細胞分裂と芽の成長促進
アブシシン酸  1965年アメリカでワタの果実から  落葉促進・休眠の維持 
エチレン  常温では気体  果実の成熟促進・休眠打破
ブラシノサイド  1970年洋種アブラナから  成長促進とくに茎の伸長促進
ジャスモン酸  1962年ジャスミンの花から  傷害ストレス対応・落葉促進

 動物や人間の場合は、体内にホルモンを作る腺(せん)があります。脳下垂体(のうかすいたい)とか副腎皮質(ふくじんひしつ)などがそれに当りますが、植物にはホルモンを出す特別の器官はなく、成長の盛んな組織で作られて全身に配られます。オーキシンは、成長の盛んな若い芽や、受精してタネに発育してゆく胚珠(はいしゅ)などで作られます。サイトカイニンは根で作られて、地上の茎や葉へ送られます。

オーキシンの化学構造式
インドール-3-酢酸
(内生オーキシン
パラクロロフェノキシ酢酸
(合成オーキシン)
  植物ホルモンのうちもっとも早く発見されたオーキシン(auxin)は、「成長する」という意味のギリシャ語・auxein から名づけられました。その後の研究でオーキシンの成分はインドール-3-酢酸(さくさん)という化学物質であることもわかりました。

 さらに研究者たちはいろいろな化学物質をテストして、植物に対して
オーキシンと同様の作用を示すものを探し出しました。アルファナフタレン酢酸(NAA)やパラクロロフェノキシ酢酸(4-CPA)などがそれで、これらを合成オーキシンといい、本来植物が作るインドール-3-酢酸を内生(ないせい)オーキシンと呼んでいます。2,4-D という化学物質は除草剤として知られていますが、パラクロロフェノキシ酢酸と構造のよく似たもので、うんと薄めると合成オーキシンとして使えます。

 
ジベレリンサイトカイニンはひとつの物質ではなく、化学構造のよく似た物質の総称です。内生の植物ホルモンや合成オーキシンなど、植物の成長をさまざまに調整している化学物質をすべてひっくるめて植物成長調節物質と名づけています。
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ホルモン処理したナスの花
2回以上処理をしないよう
液に色粉を入れて目印にする

 
さて、植物ホルモンについての知識は野菜作りに必要なのでしょうか? 野菜の体内で自然に作られるものなら、別に知らなくてもよいはずといわれそうですね。それはそのとおりで、植物が普通に健全に成長している限りは知らなくてもよいものです。外から植物ホルモンを与えるのは特別の場合だけです。野菜栽培で植物ホルモンの使用が実際に行われているのは、果菜類の着果(ちゃっか)促進の場合でしょう。

 冬や早春期にナスやトマトをハウス栽培するとき、暖房や保温をしても室内はやや低温になります。茎や葉の成長には差し支えなくても、花のめしべの中の胚珠の受精が不充分になりがちです。その結果、幼果の中のホルモン量が少なくなって、茎や葉からの養分が順調に入ってこなくなり、果実の発育不良や落果が起こります。これを防ぐには花に
植物ホルモンを人工的に与えてやらねばなりません。


ホルモンの効果の説明
茎葉よりも花房のホルモン濃度が適度に高くなると
果実の発育に必要な養分が花房に入るようになる
合成オーキシン製剤・トマトトーン
値段は400円くらい、有効期間約5年

 与える植物ホルモンとしては、合成オーキシンのパラクロロフェノキシ酢酸(4-CPA)がよく使われます。この植物ホルモントマトトーンという商品名の農薬としてホームセンターなどで売っています。チューさんは家庭菜園のトマトで使っています。第一花房(かぼう)や第二花房の開花時に気温が低くて受精不充分が心配なとき、トマトトーンを50〜100倍に薄めて小さいスプレイヤーで花房に吹きかけます。このとき茎や葉には液がかからないように注意する必要があります。

 チューさんは、花房の元の方から先に向かってスプレーしています。めしべにかからなくても花房にかかれば効果があります。花房部分のホルモン濃度が茎葉部分よりも高くなることで、果実の発育に必要な養分が茎から花房へ流れこむようになります。植物ホルモンは、体内養分の流れを調節するスイッチのような役目をしているらしいのです。

 トマトは第一花房や第二花房が確実に着果することで株の成長が安定し、第三花房より上の着果も果実の発育も良くなるといわれています。それにしても
、トマトトーンの原液はパラクロロフェノキシ酢酸を0.15%に薄めたもの。それをさらに50〜100倍に薄めてからスプレイヤーでさっと一吹きするだけですから、植物ホルモンというものはいかに微量で作用するかがわかりますね。
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 家庭菜園で植物ホルモンを使うことはごく少ないので、植物ホルモンのことは知らなくてもさほど困ることはありません。でも、植物にもホルモンがあって、野菜の成長や果実の発育にごく微量でひそかに関わっていることを知っておいていただきたいと思います。 

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